日本企業におけるグローバル・リーダー輩出の仕組みについての一考察 /須藤 実和

2010年12月30日


市場のボーダレス化の進行や、日本国内の内需拡大への懸念から海外進出へのアクセルを踏む日本企業は多い。

それに伴い、グローバル人材を早期に育成するための研修プログラムや、業務支援の仕組みの構築が急がれている。こういった取り組みを通じて、日本の将来を担う人材が、世界視野で物事を捉える、あるいは、多様な価値観を持つチームにおいてリーダーシップを発揮する力を着実に身につけていくことは、日本企業のグローバル展開強化にとって不可欠と考える。

しかし、もう少し視点を拡げてみるならば、日本企業がグローバル展開において真に成功するための本質的課題は、“世界標準レベルの優れた技術、ノウハウを、効率よく再現する組織力をつける”ことにあるのではないだろうか。

自国以外の市場における事業展開の特徴として共通するのは、政治、法律や制度、文化(言語、宗教、商慣習、ライフスタイル)、経済が自国とは大きく異なる環境下で、これらに精通し、現地における実績、ブランド、ネットワークを有する地元競合プレーヤーを相手に闘っていく必要がある、というdisadvantage(不利な要素)を抱えていることだ。したがって、このようなdisadvantageを相殺し得るようなadvantage(有利な要素)が明確に存在することが不可欠だ。多くの場合、海外展開する企業は現地市場における後発として参入することになるため、競合に対する圧倒的な優位性や差別性を示すことで、はじめてエンドユーザーや取引先を既存の購入先からスイッチさせる原動力が生まれる。つまり、世界に通用する技術やノウハウを持っているだけでなく、これらを他国に移転しても有効性を損なわないような体制ないし組織を社内に有することが重要、ということになる。


それでは、組織力をつけるためには具体的にどこから着手すればよいのか。

企業の業種や事業特性、おかれている競争環境によっても異なる面はあるが、日本企業が欧米企業や中国・インド等の先端企業に対して共通して遅れをとっていると言われるのは、ソリューション思考によるビジネス・プロセスの組み立て、とそのプロセスの標準化である。

例えば、せっかく優れた技術を持っていたとしても、その技術で何が出来るか、その技術を製品・サービスとして展開するためにはどのくらいのコストがかかるか、その技術で展開出来るビジネスにはどのようなものがあるか、といった視点からの検討が先行してしまう。一方、ソリューション思考とは、端的に言えば、“何に対する最適解を出すか”ということを設定してから検討を進める、というビジネスの組み立て方だ。特定の製品・サービスに関していえば、まず、狙う顧客セグメントを明確にし、その顧客セグメントに共通の課題は何か、その解決のために自社はどのようなかたちで技術やノウハウを価値として提供出来るのか、競合に対する自社の差別性はどこにあるのか、提供のためのコストはどのくらいか、といった視点でビジネスを組み立てていく。常に、ビジネスの着地点を明確にし、そこに向かうために何をすべきか、という発想で進めていくことが重要となる。

ソリューション思考を持ってビジネスを組み立てるためには、事業(あるいはプロジェクト)のリーダーが、全体観を持って状況を客観視し、先行きまで見通しつつ早期に意思決定する判断力、度胸、そしてリスクマネジメント能力を持っていなければならない。

こういった資質を養うためには、早い段階から組織の次世代リーダーに幅広い権限を委譲し、“経営者”と同じ目線で考え、行動し、責任をとる機会を積極的に提供することが有効ではないか、と考える。この時に、一番、重要なのは、小さな失敗を許容出来る度量を組織が持っておくことだ。欧米のベンチャーキャピタルにおいては常識とされている考え方だが、以前、起業に失敗したとしてもその失敗経験を活かせるような人材ならば、次はもっとうまくやれるはずだ。企業の中核人材においても同様であり、失敗経験の価値をバランスよく評価する社内の仕組みが不可欠ではないかと思う。

さらに、このようにして築いたビジネスにおける優位性や差別性を、他のメンバーが再現できるように、ビジネス・プロセスを形式知化することが他国への展開において極めて重要であり、これこそが“標準化”の第一歩といえる。日本企業には多くの知恵が“個人に仕事がついている”という状態で散在してしまっている。この知恵を組織力に転換出来るような、形式知化の仕組みづくりは急務だろう。しかし、ナレッジマネジメントの仕組みの導入や、さまさまなデータベース構築だけでは充分なプロセスの標準化が達成出来ていないのが現実である。

標準化への抜本的な取り組みを阻害する要素はいろいろあるようだが、一番のハードルは、組織内に、プロジェクトマネジメントの仕組みが構築されていないことなのではないか。多くの日本企業が、QCD、すなわち、品質、コスト、納期の管理という視点でのプロセス・マネジメントに関しては極めて高い水準を達成・維持している。しかし、ソリューション思考を持ったビジネスの組み立てを進めていく上では、スコープ(プロジェクトの目的と範囲)、時間、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達、統合管理が管理対象となり、従来型のマネジメントとは異なる視点での管理が求められる。組織内にプロジェクトマネジメントの成功事例を蓄積し、組織内に成功体験のナレッジをひろめていく仕組みを構築するための第一歩としては、まず、次世代のリーダーにプロジェクトマネジメントスキルを体系的、具体的に習得する機会を提供し、プロジェクトマネジメントのロールモデル(手本となる人材)を育成することが必要不可欠と考える。

そして、このような取り組みを進めていくうえでは、考え方のステップや優先順位に関する基準を明確化し、時には大きく変えることが必要になってくるため、結果として、組織風土の変革まで踏み込まざるを得ないケースも出てくる。だからこそ、経営者自らが大きく旗を振って組織を先導しなければ実効性を上げるのは難しい。