ダイバーシティ・インティグレーション /花田 光世

2011年1月31日

-共生の場と個人のストレッチの統合プロセスの重要性-

ダイバーシティに関しては、エッセーなどを通じて、私の考えをまとめてきましたが、最近のダイバーシティ & インクルージョンの動きについて一言述べたいと思います。私の実践アプローチは場の構築を求めるものではなく、個々人のダイナミックな行動・認識プロセスの変容を重視するものです。キャリアアドバイザー活動にしても、ライフキャリアの捉え方にしても、このダイナミックな行動志向重視のアプローチです。

このアプローチからダイバーシティを考えてみたいと思います。ダイバーシティの第一段階はもちろん、ダイバーシティの重要性の認識からはじまります。多様な考え方や立場を認識・尊重し、組織としてこの問題・課題に取り組むことの重要性の確認です。次の段階はダイバーシティマネジメントです。ダイバーシティを組織として推進するに際して、トップや担当者がダイバーシティの推進に強くコミットし、多様な展開をするようになります。しかし、この段階は、組織の視点からのダイバーシティマネジメントの活用です。多くの場合、それがいわばトップダウン型、組織中心型の展開であり、当然、必ずしも一人ひとりの心に根差した受け入れにはなってはいません。そこで担当者は苦労し、ポジティブアクションや、意識変革の対応を図るわけですが、現場において、多様な考え方や立場を心から迎えいれる保障はありません。その立場や存在は認めるが、それは法律で、あるいは上からの指示であるから認めたものであり、自分たちの立場がダイバーシティによる他の違う立場から恩恵を受け、心から受け入れるという認識にはなかなかなれません。

少し昔の理論ですが、ボガディスという社会学者が、Social Distance理論という考えを提唱しました。古い考えで、今の時代では問題となる表現もありますが、その理論での表現をそのまま使って説明します。いわゆる人種差別の問題で、人種差別を受け入れるには心理的な段階レベルが存在しているというものです。国として法律として人種を差別しないということは受け入れる。それを第一レベルとした時、そのレベルは必ずしも、自分が認識として差別を放棄したことにはならない。次の第二レベルは同じバスや電車という公共のスペースで同席する。第三レベルは食卓というプライベートな空間で同席する、第四レベルは自分の友人として認める、そして最終レベルは自分の家族の一員になることを認めるという認知的なSocial Distanceという段階レベルの存在です。この一連のレベルで、同じ食卓で談話をするということは、お互いの違いを認め、交流の場を受け入れるということです。しかし、それは構築された場に参加するということで、自分自らが心を開いて積極的に交流の場を構築するということにはなりません。それは次の第四レベルの友人として認めるレベルです。

そこでダイバーシティ&Inclusion。このInclusionはまさに、与えられた共生の場の受け入れと参加から、むしろ自分自らが積極的に交流の場を構築するという方向に向けた能動的なアプローチへの展開を推進するものと考えています。ですので、Inclusionは冒頭、私が述べた、能動的なアプローチにつながるものと考えています。しかし、私はさらに、個人の成長軸を加え、ダイナミックなストレッチ・成長へと変化させていくことが重要と考えています。Social Distanceにおける「友人(必ずしも無二の親友でレベルではない友人です)になる」から、「家族のメンバーとして受け入れる」という展開では、何が変わったのでしょうか。友人になるというのは能動的な行為であるには違いないのですが、それにより、自分のライフスタイルや、自分自身の社会における存在が大きく影響されることはあまりないと考えます。それに対して、家族のメンバーということになると、それは自分自身の立ち位置、社会での存在、ライフスタイルの在り様全てに関係が出てきます。

企業でも同じプロセスが存在します。上から言われ、法律から守るべきものとしてダイバーシティの実現が要求されます。しかし、それを自分の行動変化や認識変化に結び付けるにはいくつかの段階を経たうえでの対処となります。時代は組織としての有効活用のダイバーシティマネジメントから、ダイバーシティ&Inclusionの段階に入ってきています。しかし、この段階は、ある意味、友人として、認める場を共有し、異質性を認めて交流をするという段階ではないでしょうか。しかしそれにより、自分が変わる、自分の存在が変化するということには必ずしもつながりません。自分のありよう、生活観、ライフスタイル、それに伴う行動が、多様な他者を受け入れ、そこから自分自身を変えていくというレベルに達した時、ダイバーシティが自分にとってのダイバーシティの問題になってくると考えるのです。私は「社会におけるダイバーシティ」と「個々人の多様な可能性・考え方の実践による『個の自律』」が統合されていくプロセスが重要であり、それこそが個人にとってのダイナミックなストレッチ・成長であると考えています。そのダイナミックなプロセスをダイバーシティ・インティグレーションと表現しているのです。

このダイバーシティと個の自律のインティグレーションとは、多様な他者の存在により、自分を能動的にストレッチさせ、自分を変えていくプロセスです。相互啓発により、お互いがストレッチすることとは、共生の場の構築ではなく、多様な人たちが相互啓発、相互成長を繰り返すプロセスなのです。それを私は一人ひとりの個が、自分の内にある多様な可能性を開発し、新たなIdentityを構築していくプロセスと考えています。私は以前からワークライフ・インティグレーションの展開を主張してきました。ワークライフ・バランスも、もちろん重要ではあるが、自分が能動的主体的に構築する仕事と自分の価値観・Identityとの統合を図り続けるプロセスをもっと考えようと語り続けてきました。自分にとっての外発的報酬(肩書・地位・報酬・責任)はキャリアアップとして重要なターゲットだが、それはキャリアダウンも当然念頭に置かざるを得ない。それに対して内発的報酬(本気になれること、価値観・Identity)を仕事の中に見つけ、発揮していくプロセスをキャリアストレッチングと呼んできました。もちろんワークライフ・バランスもワークライフ・インティグレーションも双方とも重要です。外発的報酬を目指すキャリアアップも、内発的報酬に向けた行動発揮であるキャリアストレッチングも双方とも重要です。今ダイバーシティ & Inclusionの展開で、ややもすると、共生の場の確保と受け入れ論が台頭してきています。しかし、多様な人たちが共生する状態、場の構築に加えて、その場を活用して、相互に啓発し合うことにより、個々人がストレッチし、相互成長を目指すという、能動的側面をしっかり理解し実践することが重要なのではないでしょうか。