プロジェクト・マネジャーの育成について / 神庭 弘年

2011年8月31日
企業が個人のキャリアを丸抱えで面倒をみるというような事が破綻しているにもかかわらず、個人の側に自立した自己像というか、自律的に自分のキャリアを獲得してゆくような気概が薄弱であることが気になってならない。

現在私は、PMI(Project Management Institute)®日本支部の代表として日本におけるプロジェクトマネジメントの向上と普及に努めている。PMIは、35万人の会員を有する世界最大のプロジェクトマネジメントの団体で、PMP (Project Management Professional)という資格認定でもよく知られている。日本支部はPMIの日本における唯一の窓口で、1989年設立以来、プロジェクトマネジメントに携わる、メンバーであったり、業務役割としての担当者であったり、職種(通称プロマネと称する)で、あったりする人達の育成・向上・支援を組織のミッションとしている。当然ながら私の関心事の多くは、優れたプロマネの育成にある。

PMIの提供しているプロジェクトマネジメントベストプラクティスにPMBOK®があり、プロジェクトに共通なフレームワークとしてのマネジメント標準を提供している。PMBOK®では、プロジェクトの定義は有期性と独自性にあるとされる。つまり期間が限定されていてやったことのない業績の達成を目指すもの、とされている。これらは多くの制約条件の下で実施され、成功裏に達成するためのノウハウがプロジェクトマネジメントである。そして主として達成の責任を担うのがプロマネである。無数にある現実のプロジェクトはそれぞれ固有の進め方や固有の課題を抱えているが、プロマネに、なんとか汎用的なノウハウを与えられるよう、過去の膨大な実績から帰納法的にまとめ上げられた汎用的なフレームワークがPMBOK®という訳で、多くの企業でPMP®資格の取得や、PMBOK®の学習が推奨され継続されている。

しかし知識の習得は不可欠ではあるが、それだけではプロジェクトを統率できることにはならない。未知な領域があり、予期せぬ出来事が起こるのがプロジェクトの生態であり遂行責任者であるプロマネはしばしば、厳しい判断の岐路に立つことになる。

この孤独な重圧の中で自分を見失うことなく冷静さとリーダーシップを維持するには何か必要なのだろうか。優秀な業績を上げている人達から、最適な行動様式を抽出しようとしたものがコンピテンシーであるが、殆ど再現性のないプロジェクトの中で孤独な個人として行動せざるを得ないプロマネにとっては、一般的で汎用的なコンピテンシーよりもその時点のプロジェクト状況が要求するきわめて個体差の大きな、プロマネのロールモデルを模索したくなる。このプロマネの"役割"とか"責任"とかに反応し行動するためには、自分の役割を自覚し受け入れるステップと、それにふさわしい行動を取ろうと努めるステップが必要となる。リフレクション(内省)の必要性と行動を実行に移す時の技能の有無についての考慮がプロマネの育成には不可欠の要素であると考える。しかしこれらを促すしくみは、企業にはまだあまり例が無い。プロマネの成長には自覚するプロセスが不可欠であり"一皮むける"様なジャンプには、"自ら育つ"とでも言うような自分の役割と責任を、受け止める事抜きには発生しないであろう。メンタリング/コーチングなど多くの施策が実施されていることは承知しているが、内省、自覚(Self-Awareness)の促進を仕組みとして取り組むことはもっと検討されるべきではないかと思う。

2011年6月に定年退職するまで長年にわたって日本IBMに勤務し、私自身がプロマネ職であり育成に様々な努力をしてきたが、ひとつの可能性として試みてきた施策に内省促進とコーチングのようなアドバイザー制の組み合わせたものがある。もともと私案から生まれたものであるが、100名を超える試行から幸い大変好意的な評価を得られたので、現在、汎用的なしくみに再構築中である。将来、機会をいただければこの成果もご報告したいと思う。

PMI日本支部 会長 神庭弘年
(非常勤講師、プロジェクトマネジメント論担当)