強い心=未来へ続く今を感じること /伴 英美子

2010年8月18日

大学院在学中から関心を寄せていることに、介護に携わる人々のメンタルヘルスの問題があります。中でも意欲に燃えていた方が慢性的なストレスにさらされ燃え尽きてしまうバーンアウトは、介護の質に大きな影響を与える問題と考え注目してきました。

 

一言にメンタルヘルス不調といっても、様々な要因や症状があります。メンタルヘルス不調に陥るまでの意欲の変化に着目すると、バーンアウトの他にも、理想に燃えて入職した方が厳しい現実に直面しメンタルヘルス不調に陥るリアリティ・ショックや入職当初から仕事への意欲がもてずメンタルヘルス不調に陥るケースなどがあります。ところが、現在幅広く使われているバーンアウトの質問紙は、測定時点の状態のみを把握するもので、それらを区別することができません。

 

そこで博士研究では長期的な調査を実施し、もともと意欲がありメンタルヘルスが良好だった方がバーンアウトしてしまう要因を検証しました。すると、週10時間以上の時間外労働や、組織のビジョン・戦略に共感できないこと、参画の程度の低さなどが関連していることがわかりました。この結果から、長時間労働によって疲れ果て、組織の方向性には共感できず、かといってギャップを埋める機会もないままに燃え尽きてしまう介護職の姿が浮かびあがってきました。バーンアウトは意欲があるからこそ陥る症状ですが、その背景には単にストレスが高いということではなく、エネルギーを傾けても理想の姿に近づくことが出来ないという、将来への絶望感があるのではないかと感じました。

 

さてこの調査には入職当初から意欲を持てずメンタルヘルス不調の方が数名含まれておりましたがその殆どは離職してしまいました。こういった方が就労を続けるのはとても稀です。

 

先日、その稀なケースの方とお話する機会を得ました。彼女はそもそも介護以外の分野での就職を希望していたましたが、希望がかなわず、最も現実的な選択肢であった介護の仕事を選びました。人材不足の続く介護分野では、本来は別の分野で就職したかった方が少なくありません。「実際のところ、やる気があるとはいえないけど、やらないと。」からスタートした彼女のキャリア。間もなく、対応の難しい利用者との出会いや、信頼する同僚の退職や異動などで精神的に疲弊し、利用者への嫌悪の感情を抑えることが難しくなってしまいました。バーンアウトスコアも最も重篤なレベルでした。当時の彼女のインタビューログには「○○になってしまった」「○○しなくてはならない」と状況に振り回される姿があります。その彼女に1年半ぶりにスコアの記入をお願いしたところ、ストレス体験頻度は変わらないものの、バーンアウトスコアが改善していました。つまり、ストレスへの耐性が強くなっていたのです。お話をお聞きしたところ「できる」「楽しんでやらないと」「しよう」という能動的なコメントが増えていました。本人曰く、様々な業務の経験や他企業の介護職員との交流、人に感謝される経験などを経て「自分に足りないところ、できること、しなくちゃいけないことが見えるようになった」とのこと。

今の自分と目指す自分像につながりが感じられることが人の心を強くするのだと改めて実感しました。