急がれる新たな人材開発の仕組みの構築 ≪後編≫ /花田 光世

2010年11月11日

我々が今構築すべきもの
 
  我々が直面している現実は、単なる小手先対応ではなく、新人事パラダイム導入とその制度的実践であり、それを先延ばしする時間ゆとりは、存在していない。私はこの新たな人事方針確立にあたって、海外の仕組みをベンチマークし、それをしっかりと導入すべきといっているのではない。例えば韓国のサムスンや、フィンランドのノキアをベンチマークするので終えるのではなく、アグレッシブな課題達成、WLBの実現、そしてグローバルスタンダードの確立などに対し、我々自身のしっかりとした基準と方針をもち、それに対応する人事仕組みを構築していこうと言っているのである。例えば、サムスンや中国の新興企業の特徴は、「徹底的な仕事の達成志向とそれをやりとげる意欲の強さ」であろう。この達成志向と意欲を涵養するため、例えばサムスンは報酬や昇進で徹底的な成果主義を展開し、成功者にポストと報酬で報いてきた。一説ではサムスングループ全体で1億円プレーヤーが300人いるというこの徹底的な成果主義は、外的報酬のモチベーション管理を人事の中核に据えている。しかし、我々が対応すべき問題は、このようなモチベーション管理ではなく、達成志向と意欲の涵養という目標を達成するための私たち流の方策の徹底化である。


成熟化という社会の流れ

 その徹底化で検討すべきは、日本人と日本社会の多様な意味での成熟化である。私たちの社会は年齢構成から見て成熟化している。GNPの絶対額は先進国としてのレベルを維持している。国は社会の成熟化に向け、様々な法的な整備を行ってきている。残業に関しての統制、心を含めた健康の促進、快適職場構築に向けたハード・ソフト両面の充実、働きがい・働きやすさへの意識向け、などが厚生労働省の各種指針に顕在化してきており、企業は受け身的であっても導入を求められている。

 失業問題や、希望する仕事につけないという状況が存在しているにもかかわらず、学生、フリーター、アルバイターは生きがいを追い求め、シニアもまた、働きがいにこだわりをもっている。そこから求められるのは内発的(心理的)報酬・動機づけの重要性であろう。一人ひとりの社員は、この多様な成熟化プロセスの中で、アグレッシブに外的キャリアを求め、ひたすら働くことを「かっこ悪い」と感じるようになってきている。会社もまた、そのように「一生懸命、ひたすらに」働こうとする社員に待ったをかける、人事施策を展開するようになってきた。

 「懸命に働かなければ」グローバル競争に勝ち抜くことはできない状況がありながら、WLBや生きがい重視の風潮の中で、どう人事は方針を確立し、施策を展開すべきか。答えは明白。上述した、内発的(心理的)報酬・動機づけを全面に押し出した人事・人材開発の仕組みの構築と実践の徹底化であろう。「内発的動機づけ中心など、到底実施不可能、」「従業員を甘やかすだけ。」「そんなことをしたら組織はばらばらになってしまう」などの意見が人事部門の中からも噴出してくるに違いない。


人的資産の重要性

 我々は資本の論理をベースとした経営のあり方を国として採用し、資産の評価を時価会計で行う施策が組織に求められている。当然のことながら、経営の基盤を構成する『人』も資源価値から、直近で成果を出すことが求められる『資産』価値にシフトし、その資産価値の拡大は個人の責任とされてきている。厚生労働省が推し進めている「快適職場のソフト面」の充実化の中で、「キャリア形成の最終責任は基本的に個人にある」とすら明記され、今後はますます、個々人が長いライフキャリア構築の中で、自己責任で成長・資産価値の拡大に努力しなければならず、同時に「働きがい」、「精神的な豊かさの」の実現も重要な達成テーマとなっている。

 このような状況を念頭に置いたとき、我々はいまこそ、社会・組織・個人の成熟志向の中で、「人的資産」を自分の責任で開発し、拡大する仕組みの実践を人事制度の中で徹底化する必要があろう。しゃにむに仕事にのめりこみ、課題を達成することにドライブがかかる韓国、中国、あるいはインドの企業と競争するには、私たち流の課題達成意欲や意識を育む仕組みの構築が必要だろう。内発的動機づけをベースとした人事・人材開発の実践は、個人を甘やかしたり、実現可能性のない、絵空事でもなく、徹底的に実現することが求められる人事パラダイムであろう。

 それには個々人が「人的資産」の拡大と発揮に向けて、どう体系的に自己のキャリアを構築するかというプロセスや、具体的な活動モデルを提示する必要があろう。図表はそのモデルである。モデルの中心には、成長実感のロードマップを置いており、そのロードマップにマッチした心理的報酬、ロードマップの実践による、人間的成長としてのキャリアチャンスの拡大とキャリアストレッチを置いている。またロードマップの実践に必要不可欠な、多面的な自己理解と自己の多様な力の理解、そしてその結果として、自分自身が自分のキャリアのオーナーとなる自己責任型のキャリアデザインを明示した。

 いま私たちが直面し、乗り切らなければいけない様々な課題に対して、我々人事パースンはどこまで危機意識を持ち、当事者意識を持ち、そして勇気を持って、この内発的動機づけをベースとした個の主体的なキャリア開発の支援の仕組みをデザインし、その実践を行おうとしているのであろうか。我々に残されている時間、そして企業が問題の先延ばしをしてきた余裕はもうないことを認識すべきであろう。

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