食の多様性を支える対面販売 /高橋 俊介

2010年4月 4日

昨年のシルバーウィークに、イタリアのピエモンテ地方の田舎町であるブラを訪問した。有名なスローフード運動の本拠地がある村で、2年に一度のチーズ祭りが行われていた。4日間の会期中に数十万人が訪れる大規模なチーズの祭典で、世界中の良心的な小規模チーズ生産者が出展し、チーズや地元のワインなどの試飲、チーズセミナーや夕食会などが行われる。


そもそもファストフードの台頭への危機感からイタリアで始まったスローフード運動は、食文化を守るため、良心的な小規模生産者を守り育てるために、食の提供者である小売店やレストラン、そして消費者自身が変わらないといけないいう問題意識がスタートだ。それが大きな地域おこしにつながっている。


一方で日本では食品の対面販売が大きく減少している。日本は消費者の行き過ぎたデフレ指向の影響もあるだろうが、そもそも料理方法にも、計画と実行を分離するという産業社会の考え方が強く影響しているからではないだろうか。平たく言えば、買い物に行く前に料理を細かく計画し、買い物と調理はその計画どおり行うというものだ。


しかしこれでは、行ってみないと今日何があるかわからない魚料理は発達しない。日本の魚食文化の基本は、魚種の多様性だ。その場で教育効果もある対面販売を通じて料理を決めていくやり方でないと、魚食はいつでも手に入る一握りの魚に限られ、日本の魚食文化は衰退する。


実は豚食の歴史と伝統を誇る沖縄でも、最近は対面販売が減ったことで、珍しい部位の食べ方を教える教育効果が薄れ、各部位均等に売れなくなり、部位単位の輸入が増えている。沖縄のマチグワー(市場)での対面販売の教育効果が、多くの県内小規模生産者の豚を丸ごと無駄なく食べる部位の多様性を支え、それが独自の食文化となる一方、食料自給率を高くしてきたのだ。


われわれ一般消費者にできることは、良心的な飲食店や販売店、生産者の常連になることだ。常連には常連の責任がある。大げさに言えばパトロンなのだ。定期的にその店に通い、学習し意見も言う。食料自給率のためばかりでなく、食の多様性の食文化のためにも、さらに大げさに言えば、輸出型製造業だけには日本経済が頼れない現在、産業化社会の発想とは異なる新しい世界の流れをいち早く取り込むことにもつながるのではないだろうか。

(高橋 俊介)