SIOPに参加して/ 志水 聡子

2011年5月25日

2011413日から416日にかけて、アメリカのシカゴで開催されたSIOPSociety Industrial and Organizational Psychology)第26annual conferenceに参加してまいりました。SIOPとは、米国産業・組織心理学会を指し、アメリカにおいて最も古く最大の機関であるAPA(American Psychological Association)の分科会及びAPSAssociation for Psychological Science)の支部です。

SIOPannual conferenceは、“sciencepracticeのバランス”を重視した点に特徴があり、研究者のみならず、人材開発を専門にしておられる実践家の方にも興味深い学会なのではないかと考えます。実際、SIOPの発表者は、コンサルタントや企業の人事、組織開発担当者であってもPhDを持っておられる方が多く、また各セッションでは、研究者やコンサルタントがそれぞれの立場から発表を行った後に、世界各国から集まった様々な経歴を持つ参加者が積極的に質問をしたり、ディスカッションに参加したりするなどして、白熱した議論が展開されていました。発表テーマのカテゴリーは、キャリア、コーチング、グローバル人材の育成、ダイバーシティ&インクルージョン、リーダーシップ、モチベーション、パーソナリティ、アセスメント等、多岐にわたり、上述のテーマに関連した様々な特定テーマで、朝8時~18時まで、常時23の部屋で、研究発表やシンポジウム、ワークショップ等が行われました。

今回、私がこの学会に参加した目的は、米国における360度フィードバックの最新の動向を把握することでした。360度フィードバックとは、上司・同僚・部下などから得た評価や、自己評価の結果から、 自己の強みや課題を認識し、その認識に基づいてアクションプランを作成、実施することを通じて行動変容を促す教育的な取り組みです。 日本ではまだ一般的とは言い難い360度フィードバックですが、アメリカではFotune500社の90%が何らかの形で360度フィードバックを活用していると言われており、リーダーシップ教育の一手法として広く普及しています。今回の学会にも、360度フィードバックを専門とするコンサルタントや研究者、企業の人事担当者が多数集まっており、360度フィードバックをテーマとしたセッションだけでも、“360度フィードバックの10年間の進化”、“360度フィードバックとパーソナリティアセスメントとの関係”、“360度フィードバックにおける実践的な挑戦とは”など、多様なテーマで意見交換がなされていました。

その中で特に私が印象に残ったセッションは、“Implicit Leadership Theory(インプリシットなリーダーシップ理論)に基づくこれからの360度フィードバックの展開”というセッションでした。

Implicit Leadership Theoryとは決して新しい概念ではなく、social-cognitive approachの流れの中で1975 年にEden&Leviathanによって使用された概念です。この概念は、評価者がリーダーの行動を評定する場合には単に現実のリーダーの行動だけでなく、評価者のもつリーダーシップについての考え方が影響してくる、というものです(松原,1988)。例えばある部下Aさんの求めるリーダーシップが、Aさんの上司の“実際の行動”と大きくかけ離れている場合には、たとえその上司の行動が科学的なリーダーシップ理論の立場から妥当なものであったとしても、Aさんの上司に対する評価は低くなる傾向があるとする考え方です。この古くから存在している理論が360度フィードバックを活用したグローバルリーダーシップの育成において再び注目され始めています。

このセッションにおけるTina Kiefer(University of Warwick)William A.Gentory(CCL)らの主張は、“リーダーシップ”という概念には社会的、文化的なコンテクストが含まれているため、国や文化の異なる評価者(部下、同僚、上司)はグローバルリーダーに対しても自国のリーダーに対するのと同じ期待を持っている可能性が高く、360度フィードバックを通して“文化的な違い”に基づく“リーダーへの期待の違い”を理解することは、グローバルリーダーのリーダーシップ力を高める上で有効であるというものでした。

 リーダー行動の評定に評価者個人のもつリーダーシップについての考え方が影響していることを前提とすると、心理測定論に基づいて、できるだけ評価者間の測定誤差を減らそうとする360度フィードバックのアプローチは、個々の評価者からの重要なメッセージを見逃してしまうと言えます。グローバルリーダーシップに限らず、花田先生が提唱されるダイバーシティ&インテグレーションの立場から360度フィードバックを検討すると、むしろ評価者である部下、同僚、上司それぞれがリーダーシップについてどのような考え方を持っているのかを別途調査し、その結果をフィードバックすることによって相互理解を深め、リーダーの自己変容を促すことが重要なのではないかと思います。多様な価値観を持つ他者1人ひとりからの学びを通して自らを能動的にストレッチさせ、相互に支援、成長できるような、キャリアラボ独自の360度フィードバックプロセスを実現していきたいと考えています。

 

参考文献:

松原敏浩 1988 インプリシット・リーダーシップ理論に関する研究(1),大同工業大学紀要, 24, 5-16

Tina Kiefer, University of Warwick, Integrating Implicit Leadership Theories Into 360°Feedback: A Drawing Exercise

William A.Gentry, Center for Creative Leadership, Global Leader View: How Practitioners Examine Leadership Expectations and Perceptions